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IFA紹介シリーズ ―吉永 高士(NRIアメリカ 金融研究室長)―

「日米資産運用の違い『アメリカ人のほうが金融リテラシーが高い』は本当か?」

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 NRIアメリカの金融研究室長を務める吉永 高士氏は、金融専門誌『週刊金融財政事情』で記者をした後、1992年から金融財政事情研究会ニューヨーク駐在員として米銀や証券会社の経営戦略などを研究、2005年にNRIアメリカに転じました。20年以上に渡り米国で投資、金融の事情を見てきた吉永氏に、アメリカの個人投資の実態などについて聞いてみました。

「日本人よりアメリカ人のほうが金融リテラシーが高い」とは感じない

――よくアメリカは日本より投資教育環境が整っていると日本ではいわれます。

吉永氏: 自分の生活や仕事を通じた実感として、平均的なアメリカ人の方が日本人に比べて金融リテラシーや投資リテラシーが高いと感じることはありません。また。アメリカでは小さい頃から学校でも投資家教育が組み込まれていると日本ではしばしば言われますが、私も子どもが2人いて今高校生ですが、そんな機会見たことも、まわりの親からも聞いたこともないです。多少例外的なものがあったとしても、それは日本の現状と同程度で、個人の投資教育を考えたときに、日本人の置かれている環境が悪いと思ったことはないですね。

 ただ投資の浸透度という点で言うと、入り口については、アメリカですと401kに代表される確定拠出年金(DC)が非常に普及しています。これを通じ、社会人になると、証券資産による退職準備等を目的とする投資貯蓄を始めるよう誘導するわけです。ここで積み上がった掛金が転職や退職の都度、証券会社に開設するIRA(Individual Retirement Account、個人退職口座)に移管するという仕組みが出来上がっていて、投資教育やリテラシー以前に投資活動を行うようになっています。アメリカではIRAは70年代、401kは80年代には登場しています。

 401kの運用対象は投資信託が基本で、従業員の拠出と企業の拠出とで合わせると年間最大3万~3万5,000ドルくらいを引き出し時まで課税されず給与天引きで積み立てられますから、サラリーマンを20~30年やるなかでそれなりに資産形成できる。ちなみに、米国の個人金融資産のうち預金は長らく10%程度で推移していますが、預金は必要十分な生活資金と、非常時資金もあわせたレベルを超えたら投資に振り向けるのが一般的です。

 401kやIRAでは、中長期分散投資をガイダンスとして勧められますが、管理会社や販売会社のほとんどが分散ポートフォリオは「株6に債券4」を基本形としていて、そこから20%ずつ増減させて保守型から積極型まで5段階用意するところが多い。とくにこだわりがないなら基本モデルの6:4で、より積極的に運用するなら8:2か10:0の分散モデルを意識的に選んで、それを実行するための投信を選ぶといった具合です。

 ライフサイクルファンド、あるいはターゲットデートファンドとよばれる投信があります。たとえば残り30年働くとすると、残り30年の積立期間を想定して、若いうちは株式のリスクを多めにとって、だんだん取り崩す時期に近づくと債券の比率が高くなるといった具合に、引退時期を逆算して運用期間中の資産配分比率を変えていくものです。これは401kにも組み込まれることで00年代以降に急速に残高が増えていますが、401kに加入した人が自分で運用商品を選ばない場合には、企業がその人の年齢に基づき特定のライフサイクルファンドを自動的に買い付ける設定にしているのが現在では一般的です。この仕組みのなかで、投資リテラシーや金融リテラシーが高くない人も一定のリスクをとった投資に自動的に誘導されています。

――日本のIFAは、個人資産をお預かりしてアセットアロケーションをアドバイスしますが、アメリカでも同じでしょうか?

吉永氏: アロケーションはアドバイスしますが、使い方は少し違います。アメリカで過去20年くらいかけて浸透してきた投資アプローチに「ゴールベース資産管理」というものがあります。英語でいうとGoals-based Wealth Management(ゴールズ・ベースド・ウェルス・マネジメント)。

 ここでいう「ウェルス・マネジメント」って財産管理、資産管理という一般のこととしていっているのではありません。具体的には投資、証券会社や銀行なりのアドバイザーがまずお客さまの話を聞いて、どういう暮らしをしたいか、引退した後どんな生活をしたいか、自分が亡くなった後、ご家族、孫、さらに孫、世の中に対してどんなものを残しておきたいか、それらの「ゴール」をきちんと特定して、そこから逆算して、一定のリスク許容度の範囲でゴール実現に向けて必要な中長期分散投資を通じてこれらを実現しましょうというものです。

ゴールまでの期間や、資金の性格にもより、取るべきリスクレベルも異なります。預り資産の合計が30万ドル、50万ドルくらいの単位になるなら、それぞれのゴールに紐付く複数のポートフォリオを提案します。ゴール実現のために必要なリスクレベルのものです。

 ここでの中長期分散投資モデルはリスク水準の違う5~7種類程度用意するのが一般的ですが、アロケーションモデル自体は10年単位でみてもほとんどいじることはありません。

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年金はあてにならない……自分で引退時期と生活水準を決めなければいけない時代

――アメリカのような資産管理が日本でも浸透するのでしょうか?

吉永氏: 日本でも、人口が減っている中で公的年金の将来は決して明るくないし、企業年金のDC化についても、従業員自身がリスクを取るようになっている。自営業者に限らず、これからはサラリーマンであっても何歳で引退して、受給開始年齢をいつにするか、そして退職した後どんな暮らしをするか、といったことを長生きリスクも考えながら決めなくてはならない。これらは、まさにゴールです。

 どう運用するかは別として、日本でも一人ひとりの人生の問題として考えなくてはいけないのは明らかです。

 それを、自分で考えるというのも選択肢だが、IFA、証券会社、銀行の営業マンに一緒にやってもらうのか。ウェルスマネージャーとしての営業マンがいれば、「それを実現するためにはこうした方法をとった方が得ですよ」「こんなことを考慮しておくことが必要ですよ」といったことを、顧客自身が気付いていないことも含め先取り的に教えてくれる。

 一定以上の複雑または高度なニーズを満たすには顧客自身だけでは解決できないものもあり、それが対面のアドバイスによってのみニーズの切り出しや解決策の提案・実行がなされるものもあります。同じ対面であっても、証券会社の対面でカバーできない顧客をIFAがカバーしている側面もあり、それぞれの存在に意義があります。

 年間200回くらい講演などをするのですが、一番よく聞かれる質問が、「そもそも、日本人はゴールを持たないし、あっても言わないですよね」ということ。私の答えは「アメリカ人だってゴールを持たないし、そんなこと証券会社の人に言うなんて発想もまったくゼロでした」というもの。ゴールを隠しているのではなくて、何も明確で精緻なゴールなど持っていないのはアメリカでも普通のことです。それを証券会社の営業マンやIFAが話を聞き、顧客の無意識のなかにあったやりたいことを切り出して、プライオリティ付けも手伝って、最後にその実現のために必要な投資を提案するのです。

――日本でも浸透するにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?

吉永氏: アメリカでゴールベース資産管理が浸透するまで20年かかりました。今、日本では一部の証券会社が始めたばかりですから、アメリカ並みに浸透するまで最長20年くらいかかるかもしれません。ただし、20年前のアメリカと比べれば、最初から米国の試行錯誤や教訓から学べる今の日本のほうが開始時の条件面で恵まれているともいえます。いきなり5年でできるとは言いませんが、10年、15年くらいで実現できるかもしれません。

 大事なことはいつ始めるか。ゴールをちゃんと聞いて、それに紐付けた投資によってゴール実現まで伴走する関係を、月1件ペースでも積み上げ始めるとか。

 こうした関係の顧客は米国でも満足度がほぼ一律に高く、また投資の成否が短期の相場の良し悪しに依存しないことから、相場の悪いときでさえ離脱を起こしにくいことが明確にわかっている。ゴールを聞ける関係とそれに紐付く投資資産が右肩上がりで増えて行ったが、こうした営業アプローチを採用した証券会社や営業マンのうち、従来型のトランザクション型主体のアプローチに戻った人は、例外中の例外のケースは別として、アメリカには基本的にいない。お客さまにも満足して受け入れられる、営業マンの幸福度も高まる。そんな状況を証券会社であれ、IFAであれ、ゴールベース資産管理の浸透によって日本でも早く実現できるといいですね。

NRIアメリカ 金融研究室長
吉永 高士

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金融専門誌『週刊金融財政事情』記者を経て、1992年から社団法人金融財政事情研究会ニューヨーク駐在研究員として米銀、米国証券会社の経営戦略と制度問題を中心に研究を行い、投資銀行分野とリテール銀行分野を中心に200本以上の論文やレポートを発表するとともに、日本のメガバンクや地域金融機関等へのコンサルティングや講演活動に従事。2005年にNRIアメリカに入社して以後も、主に米国のリテール証券、ウエルスマネジメント、銀行分野を中心に米国金融機関の戦略、戦術、オペレーション、制度問題に関する調査を行い、通算20年以上に渡り日本人と日本の金融業界関係者にとっての有用な視座と示唆を抽出すべく研究活動を継続。

株式会社野村総合研究所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-6-5 丸の内北口ビル
TEL  03-5533-2111
https://www.nri.com/jp/

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